介護職が知っておきたい、飲み込む力を引き出す方法

介護あれこれ


食べ物や飲み物を飲み込むことを、「嚥下(えんげ)」といいます。

飲み込む力が衰えて、うまく飲み込めなくなることを「嚥下困難」や「嚥下障害」といい、食べ物が気管に入ってしまうことがあります。高齢者の場合、気管に入った食べ物の細菌が原因で肺炎になり、命にかかわる事態にもつながることも。

飲み込む力が衰えたお年寄りへの対応法をしっかり知れば、介護現場でも役立つはずです。

このコラムでは、飲み込む力が衰える仕組みや維持するための工夫など、介護職が知っておきたい嚥下に関する知識をくわしくご紹介します。

飲み込む力はどうして衰える?

高齢者は、口から食道に送り込むまでの「飲み込む力」が衰えがち。その原因は、大きく分けて3つあります。

(1)自分の歯が少なくなる

厚生労働省の調査によると、80~84歳では男女ともに6割弱、85歳以上になると男性は約7割、女性は約8割の人が自分の歯は19本以下しか残っていません。

自分の歯が少ないと、噛み砕く力が弱まり、食物を飲み込みやすい大きさにすることができなくなります。

(2)唾液の分泌が少なくなる

加齢によって、唾液の分泌が少なくなると水分が不足し、うまく食塊(噛み砕かれた食べ物のかたまり)が作れなくなります。そのまま飲み込もうとすると喉のあたりで食物がバラバラになり、それが気管に入ってしまうことが。これを「誤嚥(ごえん)」といいます。

(3)のど仏を動かす筋力が弱くなる

食べたものを飲み込むもうとするとき、喉のまわりの筋肉がのど仏を引っ張り上げています。加齢によってこの筋肉が衰えると、のど仏の位置が徐々に下がってきます。

そうなると、飲み込むときに気管を閉じるタイミングが微妙に遅れ、隙間が空きます。そこから食物が入り、誤嚥を起こしやすくなってしまうのです。

高齢者にとって、飲み込む力はなぜ大切?


「飲み込む力」が衰えると、食事がおっくうになり、食欲の低下や健康状態の悪化につながることに。とくに固いものや繊維質のなどの噛みにくい食べ物を避けるようになって、肉や野菜、果物などが不足がちになります。

結果、「飲み込みにくい」→「食事量が減る」→「低栄養・脱水状態」→「筋肉が減り、筋力が低下する」→「活動量が減る」→「食事量が減る」・・・という悪循環に陥るのです。

低栄養状態になるリスク

この悪循環のなかでも深刻なのが「低栄養状態」。栄養が十分に摂取できていないために、体を維持するのに必要なたんぱく質まで不足している状態のことです。

これが長く続くと、体力・免疫力が低下し風邪や感染症にかかりやすくなります。皮膚も弱くなり傷が治りにくくなるので、低栄養の患者さんは、褥瘡(じょくそう)、いわゆる「床ずれ」になりやすく、しかも治りにくくなってしまうリスクも。

さらに、体を動かすためのエネルギーも不足しているので、体を動かさないようにも。筋肉量が減り、筋力も衰えていきます。

このように、低栄養は体そのものの障害やトラブルの原因にもなり、歩く、立つなどの基本的な運動機能や活動量の低下にもつながるのです。

窒息、誤嚥性肺炎のリスク

さらに、誤嚥が命を脅かすことも。「食べ物が喉に詰まって窒息する」、「誤嚥性肺炎になる」リスクです。

誤嚥性肺炎とは、誤嚥によって気管に入った食物や唾液の中の細菌が肺に入り、繁殖して炎症を起こす病気。高齢者の肺炎患者のうち、7割が誤嚥性肺炎といわれていますから、誤嚥を防ぐことで命にかかわる脅威も回避できるのです。

QOLが低下するリスク

食べることは、生活の喜びのなかでも大きな要素です。食事は栄養を摂るだけのものではなく、盛り付けの美しさや香り、食材の彩りなどが「五感」を刺激し、脳の活性化にもつながります。

また、旬の食材や郷土料理、行事料理などには、季節感や地域性を楽しむといった文化的な要素もあります。

一緒に食事する人との会話によって、社会とのつながりを保つことができますから、高齢者の活動的な日常生活の支えの一つにもなっています。

できるだけ自分の口から食事をとること、自分の鼻で食事の香りを楽しめることは、生活の質(QOL)の維持につながります。だからこそ、高齢者が誤嚥を起こさないよう気をつけつつ、飲み込む力を鍛えることが大切なんですね。

飲み込む力が衰えた人は、食べることが苦痛になっていることがあります。そんなときはまず、食べる意欲を持ってもらうことが大切です。たとえば、好きなものを食べてもらう、気分良く食べてもらうなど。

健康や栄養を意識するあまり神経質になりすぎると、かえって食べる意欲が低下してしまうこともあるので、気をつけたいですね。

また、どんな場合でも急がずゆっくり食べること、口の中のものを飲み込んでから次のものを口に入れることに留意してください。

よく噛んで味わいながら食べられるような環境づくりも大切です。好きな音楽を流したり、おしゃべりをしたりしながら、ゆっくり食事を楽しんでもらえるようにしましょう。

飲み込む力の低下を防ぎ、増進に役立つ方法


次に、飲み込む力を維持し、増進させるために役立つトレーニング法を3つご紹介します。

食事をする前に行うと、口のまわりの動きがスムーズになり、飲み込みやすくなります。

(1)首と口周りの体操

肩の力を抜いて首を前後左右に倒したり回したりして筋肉をほぐします。頬をふくらませたり引っ込めたりを繰り返し、舌も大きく前後に動かします。

(2)呼吸で腹筋を動かす

腹筋の筋力がアップすると、食べ物が喉にひっかかったときに強くせき込むことができるようになり、排出しやすくなります。腹式呼吸をして、腹筋を鍛えましょう。

息をフゥフゥと2回続けて吐き、スゥスゥと2回続けて吸います。慣れていないうちは、鼻呼吸でも口呼吸でもかまいませんから、息を吐くときにお腹をへこませるように意識するところから始めてください。

(3)声を出して筋力アップ

「パ・タ・カ・ラ」の4音を大きな声で繰り返し発音して、飲み込む力に関係する器官を動かす訓練です。「パ」と「タ」は唇と舌の筋力を鍛え、「カ」で食道につながる喉の奥を動かします。「ラ」で食べ物をのどに送る舌の動きを鍛えます。

歌や会話も、飲み込む力のトレーニングに

飲み込むときには、歌うときや言葉を発するときと同じ器官を使っています。

高い声を出すとのど仏が上がり、低い声を出すとのど仏が下がるので、音程が上下する曲を選んで歌うとのど仏を動かす筋肉の訓練になります。高音と低音が混ざった美空ひばりの「悲しき口笛」や石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」などがおススメです。

介護職の皆さんが日々工夫している、コミュニケーションやレクリエーションも、飲み込む力のトレーニングとして、嚥下障害の予防やQOLの維持に役立っています。

楽しみながらも飲み込む力の訓練につながるのですから、ぜひ前向きに取り組んでください。

飲み込む力を鍛えれば、高齢者の人生の喜びも続きます


高齢者に限らず、おいしく食べられることは、人生の大きな喜びです。

自分の口で安全に食べながら、飲み込む力を鍛えていけば、誤嚥性肺炎などの危険性をかなり減らすことができ、命を守ることにもつながります。

毎日の仕事は、ついルーティンワークになりがちですが、時々意識して「飲み込む力」の大切さを思い出してみましょう。

高齢者の食事介助もレクリエーションも、体と心の健康を保ち、その人の人生の喜びがより長く続くように支える、大切なお仕事。そう考えると介護のプロとしての目的意識とやりがいが、きっとムクムクと湧いてくるはずですよ。

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