ベテランヘルパーさんに聞く、困った利用者さんへの対処法

使えるハウツー


「さわらないで!」「ここは私の家じゃないから、帰る!」・・・介護の仕事をしていると、ときどき利用者さんからこんな言葉を聞くこともあるのではないでしょうか。

このような状況で困ったとき、先輩介護スタッフさんたちはどう対処しているのでしょうか?

今回はホームヘルパー歴16年、元サービス提供責任者でもあるベテラン介護スタッフのAさん(65歳)に、困ったケース別に具体的な対処法を教えていただきました。

会話例や対応のコツなど、経験から得られたテクニックはとても実践的。取り入れられそうなものがあれば、ぜひ参考にしてみてくださいね。

困ったケース1:生活援助を拒否される

―― 「自分は元気だから、手助けはいりません!」という方や、そこまでではなくても、寂しさや不安から介護スタッフに対してきつく当たってくる方がいます。

「これさえすればうまくいく」というマニュアルはありませんが、どの利用者さんにも共通する基本の対処法は、こちらがやさしく接して、ゆっくりと話を聞き、受け入れていくこと。

ホームヘルパーの場合、最初にあせって強引にケアに入ろうとしてしまうと「来ないで!」と玄関の扉を閉められてしまうこともあります。

たとえば家のなかがゴミだらけのお宅にうかがったときのこと。ご家族からの依頼は「ゴミを片付けて家の中をキレイにしてほしい」ということだったのですが、最終的に片付くまで半年くらい時間をかけました。

自分が「これはゴミだ」と思っても、ご本人の価値観ではゴミではなく、大切なものかもしれない。自分の価値観で仕事をしてしまうと、信頼関係がつくれず、拒否につながってしまうんです。

まずはしっかり挨拶をして、はじめは「私が座る場所だけつくらせてもらってもいいですか?これはどこに片付けたらいいでしょう?」と、相手の気持ちを尊重した話し方をします。

そこから徐々に、「寝ておられる場所が汚れているから、片付けさせてもらってもいいですか?」「ここをもう少しキレイにしたら、ゆっくり座れそうですね?」「食べ物が腐ってしまっているので、捨てさせてくださいね」といった具合に。相手の反応を見ながら、ゆっくりゆっくり進めていくのがコツかなと思います。

困ったケース2:身体介護を拒否される

―― お風呂や排せつ介助など、身体介護を拒否されることもあったのでは?そんな時はどうされていましたか?

ご家族が「汚れた下着をぜんぜん替えさせてくれないんです!」と悩まれていたことがありました。私たち介護職は、たとえば尿でズボンが濡れていたとしても、そのままストレートにその事実を言うことはありません。

この場合は「あら、ズボンが濡れていますよ、お茶こぼされたんですか?冷たいでしょう、替えましょうか」と、やわらかく声をかけます。そうすると抵抗なく、すっと着替えてくださることが多いんです。

トイレの失敗は、本人にとってとてもデリケートなこと。言葉ひとつで尊厳を傷つけてしまうこともあるので、ふだんから言葉の選び方や使い方には注意しています。

困ったケース3:コミュニケーションがとれない

―― そもそもコミュニケーションをとるのが難しい利用者さんもいますが、声かけの方法など、何かコツはありますか?

利用者さんのなかには、まったく話さない人、言葉が出ない人もいます。そういう方には、反応がないから話しかけないのではなく、「こうさせてもらおうと思うんですが、いいですか?」と繰り返し聞いてみます。もし嫌だったら、首を振るなど、何かしらの反応を返してくださいます。

また、利用者さんが何かお話しされたときに、聞いてるか聞いてないかわからないような返事をするのは禁物です。「そうなんですか、大変でしたね」など、きちんと返事をしたいですね。

認知症の方の場合、私たちが思う以上に視野が狭くなっていることがあるので、寝ておられるとき、座っておられるときには、上から見下ろさないよう姿勢を低くして、しっかり視界に入って声をかけるようにしています。

たった一言で表情が和らいだり急に怒り出したり、その後の気分がコロッと変わってしまうこともあります。つねに相手を安心させる言葉を使うことが大事。人によっては、体にふれて話すことで安心される方もいます。

困ったケース4:「ここは私の家じゃない!」

―― 認知症の症状のひとつに、タイムスリップするように過去に戻ってしまう「記憶の逆行性喪失」があります。こうした利用者さんの帰宅願望には、どのように対応されていましたか?

そういうときは、本人の言葉を否定しないことが大切だと思います。あるとき、一緒にいた人がつい何気なく、「何言ってるの、ここがあなたの家でしょう?」と返したら、利用者さんは「違う!」と家を飛び出されたことがありました。

事実と違うことでもまずは話を聞き、受け入れるのが認知症対応の基本です。私の場合は、「あ、用事を思い出したので、ちょっと待ってくださいね」などと言って気をそらし、事務所に「少し遅れます」と連絡を入れます。しばらくすると忘れておられるので、機嫌よく別れることができていました。

困ったケース5:「ものを盗られた!」

―― 認知症の症状として「もの盗られ妄想」もありますよね。ホームヘルパーさんはとくに、このケースで困ってしまうことも多いのではないですか?

そうですね。疑いをかけられたら、まず「それは大変ですね」と共感し、一緒に探します。見つからない場合は、「一度事務所に戻って、今度みんなで探しに来ますね」と言って帰ります。次に行くときには忘れておられることが多いですが、信頼関係ができていないヘルパーの場合、覚えておられることも。

こじれるとご家族とお話しすることもありますが、「私も経験がありますから」とわかってくださることが多いです。最終的にはご本人が納得されることが大事なので、実際には書きませんが、上司から「始末書を書かせますので」と伝えてもらうこともあります。

しばらくすると忘れてしまわれますが、こういうことがないよう、買い物に行くときにはメモに「預かったお金」を書いておき、帰ったら「使ったお金」「おつり」を書き、レシートを見せながら声に出して説明するようにしていました。

困ったケース6:暴力

―― 利用者さんの暴言や暴力といった困りごとには、どう対処されていましたか?

昔はやさしい人だったのが、認知症の影響で人格が変わってしまい、乱暴になることもあります。注意を払っていても「何するの!」と殴られたり、蹴られたりすることも。日によって波があるので、なかなかケアをさせてもらえない日もありました。

そんなとき無理にケアをしようとすると、その方の尊厳を損ねることにもなってしまいます。一度壁を作られてしまうと、その壁を突破するのは大変。なので、そもそも壁を作られないようには注意していました。

具体的には、話題をそらせて気分を変えつつ、トイレ誘導のときに隙を見て手早くオムツ交換をおこなったり。一人ひとりの言葉、顔色、目を見ながら、それに合わせて機転を利かせ、あの手この手でやっていくことに尽きるのかなと思います。

認知症の人は、何も分からないわけじゃない

―― Aさんが介護職を始められたきっかけは何ですか?

きっかけは、当時高齢だった父の介護に役立つかなと思ったことです。昔母がガンになったとき、父が介護をしている姿を見て、その大変さを間近で感じていました。それで私は、父には新しい介護をしてあげたいという気持ちがあって。

実際に父が認知症を発症したときは、ヘルパーとして身につけてきた知識や経験がとても役立ちました。認知症の方は、「何もわからない」ではありません。ちゃんと人間らしい感情を持っておられて、「どうかなあ?」と聞くと「ん?」と首をかしげたり、「こうかなあ」というとニコッと笑顔を返してくれます。

認知症の知識がないせいで不幸になる例も見てきたので、私は同じことを何度言われてもイライラせずに話を合わせることができましたし、私を忘れているときには「近所の人」になりきりました。娘だとわかってくれるときもあるので、そういう時は娘に返って会話を楽しんで。おかげで穏やかな時間を過ごすことができたと思っています。

介護職の魅力は、人の心の温かさにふれること

―― ホームヘルパー、サービス提供責任者として長くキャリアを積んでこられたAさんですが、これまで介護職を続けてこられた原動力は何ですか?

利用者さんの反応が少しずつ変わってくるのが楽しみでした。最初はそっけなかった方が、何度も話しかけているうちにだんだん自分のことを話してくださるようになったり、家族には言いにくいことも、私には心を開いて言ってくださったり。

「ありがとう」や「もう帰ってしまうの・・・」などと言われると、自分を待ってくれている人がいる、と実感できて心が温かくなります。何か嫌なことがあっても、また行ってあげなくちゃ、と思えるんです。

また、利用者さんのことを親身になってみていると、ちょっとした変化にも気付くようになります。そこから医療へつなげて病気やケガを防ぐことも、私たち介護職の大切な仕事。「よく気付いたね」「おかげで助かりました、ありがとう」と言っていただけるのも、とてもうれしいものです。

日々の仕事でストレスが溜まっていても、利用者さんの笑顔やちょっとした一言で、心の重かったものがスッと楽になる。そんな心の交流ができるのが、介護職の魅力じゃないでしょうか。16年やっていても楽しいですし、飽きないです(笑)。

―― 目標にされているものは何かありますか?

いまだに思うのは、ガンになった母の介護をしていた父を超えられていないということ。戦後で大変だった時期に子どもを育てながら仕事もして、休む間もなく働いていた父を尊敬し、感謝しています。そんな父は、今も私の目標。まだまだ遠く及びませんが、天国の父にほめてもらえるよう、これからも介護職を続けていきたいです。

ありがとうございます。65歳でまだまだ現役のAさん。持ち前のバイタリティを活かして、訪問介護の現場の第一線でも、後輩の育成指導の分野でも、今後ますますのご活躍を期待しています!

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